自邸はRC造平屋
マンションの西側窓、遥かに広がる美しい夕焼け空を見ながらふと思う。
このままこのマンション暮らしでいいのだろうか?
この後体が動けなくなって、老人専用のサ高住などに入り一生を終えるのだろうか。
そんなことを考え始める。
それでも施設に入るという選択肢があるうちはまだいい。
年金の少ない我々には今となってはもう望むべくもないのかもしれない。だったら自分で自宅施設を作るしかない。
マンションは何件か移り住んだ。そのほとんどが最上階角部屋、眺望も環境もいいけれど、
バルコニーの先には出られない、当然だけど身も心も空中に飛び出してしまう。
地に足がついた生活がしたい。そう言ったのは年老いた顧客。
私もちょうど今そんな気分だ。窓を開け足を踏み出したい、その向こうに地面がなくてはいけない。
もしかしたら人間の根源的な習性なのかもしれない。
親父が亡くなって22年が経ち、母も施設に入って3年がたった。
子供の頃20年近く暮らしたことがある実家が残ってしまった。駅から遠いのでしばらくはほっておいた。でもいまさら全く知らない所に引っ越して住みたいとも思わない。
ボロボロの家が私を呼んでいた、戻ろうあの場所に。そう親父が囁いたような気がする。
家は人が住まなくなるとあっという間に傷んでしまうと聞いていた。実際その通りになった、虫が入り込みカビがはびこり、雨漏りさえ始まっていた。たくさんの小物たちが家中を占拠し思い出を主張していた。
そうだ私は建築家なのだ、でも学生の頃決して住宅だけはやるまい、そう決めていた。
なぜなら個人の住宅は儲からないから、小さいから、個人にべったり張り付いて最後まで面倒を見る、人付き合いの悪い私にはとてもできそうになかった。
それに住宅のプランはマンション設計等であまりにもたくさん作ってしまった。
どれを見ても過去に自分が作ったどれかのパターンに当てはまった。何万通りも作ってしまったのだ。
だから自分の家は今やってる仕事と同じように基本設計で止めることにした。
後はハウスメーカーに全部頼もう、そう考えていた。