黒い森
いつもの 上野公園の 帰り道 。
左手に高校の 丸いドーム型の体育館、 右側には重厚なデザインのグリーンサロン、
その奥のいつもの公園の緑が昼間の優しを捨てて、黒い幕となって 夕日を背に迫ってくる。
上野駅に向かって小さな黒い塊が次々と 吐き出されてくる。 まるで 何かの怨念 みたい 。
この道を通り この風景を見るたびに一人で死んでいった友人のことが頭から離れない。
これって 上野に事務所を持つ 私の宿命なのだ 、逃れることができない。 通るたびに毎日毎日。
あのドーム屋根の向こうに彼の家があったのだから。
彼が死んでから2週間の間 私は荒れ狂っていた 。彼の怒りを代弁しているのだと思っていた。
誰にも看取られないまま一人で亡くなり 。
まさか自分の家にもう帰れなくなるとは思わなかったのだろう。
ちょっと救急車に乗り、 しばらく入院すれば帰れると思っていたのだろう。
それが気がついた時にはもうがんの末期、緩和ケア病棟に 最後の体を横たえていた。
でも考えてみれば この怒りは私自身の怒りだった 。
こんなことがあってはならないという。
彼がなくなった後 夢を見た 。
新築の私の家の玄関のポーチ階段に座って ただ ニコニコ としていた。
あれ どうしたの 入院してたはずじゃ と言いかけて気がついた、 入院はもう終わっていたんだ。
彼の顔は若く髪も黒々としていた。そうか来てくれたんだ。 目が覚めてからそう思った。
毎朝仏壇に手を合わせ亡くなった人たちの名前を一人ずつ 呼ぶ。
呼ぶたびに顔が浮かぶ 。でも彼らの写真を驚くほど持っていないことに気づく。
亡くなってしまった彼らと私との距離はわずかだ。
ほんのちょっとの行き違い みたいな感じで 私はこっち側に残り、彼らは向こう側に行ってしまった 。
そんなことばかり考えていたのでは生きてはいけないのかもしれない。
でもどうにも重くのしかかってくる。
後悔という名前で。