ヤマヒョウの墓

なぜかお彼岸が過ぎて我が家の墓参り行事が終わると、今度はヤマヒョウに会いたくなる。
秋晴れ、行くべき日だ。途中ふと思いついてコンビニでビールを買う。
昔は一緒に良く飲んだよね。今日はこれで話そう。そう思っても今の私には彼の姿が見えない。
仕方ないから線香台の石の上にビール缶を置いて、ひとりでぶつぶつ。


完全に私はこっち側の世界の人間。心が通わないね、残念。
仮に相手が見えていたとしてもそれは自分の記憶というフィルター越しだから本物じゃない。
本物じゃないけどかなり近いはず。長く集中していると右側の空間にヤマヒョウの顔が大きく浮かんだ。でも直後に顔が崩れ始めてゾンビになったので集中を解いた。
彼と最後に話した言葉がよみがえる。
俺はモーホーじゃないけどあんたのことは愛してるぜ。ヤマヒョウは風の中で叫んだ。
実に嬉しそうに。

いつも近くの川に行くと思い出す。
この川の上流に彼が住んでいる。
本当に本当に困ってどうしようもなくなったらこの川を上って会いに行くから。
そう思って心に留めた。
その日は来なかった。それにその川の先には彼の家は無かった。
私が希望という名前で名付けた幻の魂の救済所だった。
ありがとうヤマヒョウ、ずっと困難な私の行方を支えてくれた。
ありがとう、何度でも言うよ。

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