遠くへ遠くへと

コロナの感染者数も落ち着き始めた。オリンピックが始まると同時に爆発的に増えた感染者数。
恐れを抱いて1.5か月間東京の事務所に行くのをやめた。
それでも先週から恐る恐る通い始めた。
電車の中ではきょろきょろしノーマスクマンはいないか探す。
常磐線は普通の通勤席でもマスクを外して酒を飲んでる輩がいる。オンザチューハイ族だ。
以前は睨みつけていたが最近打破さっさとこちらから席を移動する。
ワクチンを2回うっていても何の足しにもならない、そう政府の発表では聞こえる。意気がそがれる。
では何のため?気休めかい。3日間の高熱副反応は無駄だった?

緊急事態宣言に反応するのは今や利害関係のある人だけ。
年中出てるし、一般の通勤客は誰も気にかけていない。むしろ邪魔だと思っている。
県をまたいでの移動は自粛だったらしい。我々は全く知らずに恒例の奥様誕生会を新潟で行った。

大好きな妙高高原。赤倉観光ホテル。1か月前から予約は一杯で目指す部屋は空くことがない。
それでも直前に天気予報が雨になり、直後に晴れに変わる。
この一瞬のチャンス!
予約サイトを見ると奇跡の様にただ一室の深湯タイプの個室露天風呂部屋が空いた。
かくして我々は青く澄んだ妙高の空のもとに着いた。

いつもいつだってこの場所は特別。
部屋の屋外テラスに座り変わりゆく雲の流れ、光の移ろい、画面いっぱいに広がるスクリーン上で変わり続ける空と水と陸のドラマを見続けることができる。
横には大きな2段構えの露天風呂。浅湯と深湯。一泊ではもったいない。


日本海が近いせいか和食がおいしい。私が知る一番おいしい東京の店と同等のレベルだ。
ただ一つアユの塩焼き以外は。

雲の動きと共に光の点がうつろい、その先の同じ視点レベルに湖が浮かんでいる。黒姫の野尻湖だ。
遠いようで近い、あそこに行きたい、ホテルにも観光ガイドにも載っていない。
なぜなら県境を超えているから、
赤倉の近辺は観光するにもヤモリ池と滝くらいしかない、
あとは奥の古き寂れぬいた赤倉温泉街くらいか。

黒姫は30年以上前、結婚当初に行った場所。
当時はネバーエンディングストーリーが流行り、CWニコルさんの作家活動も旺盛だった。
当時出来たばかりの打ち放しRCの黒姫の童話館に寄り、清家清の野尻湖プリンスに泊まったものだ。
過去をなぞる旅は辞めておけばいいのに、体が勝手にいこうとする。輝かしい若き思い出を追って。
そして行ってみると打ちのめされる。いつだって。

プリンスの建物は残っているらしいがホテル名が変わり、おまけに長期の休館中だ。
湖から見てどこにあったのかも思い出せない。
当時ですらホテルから木立にさえぎられて湖面は見えなかった。
国立公園の法律で剪定が禁じられ、木が伸びた現在では状況はより悲惨かも・・

同様に童話館も閑散としてかつての栄華の面影もない。
おしゃれな館内イタリアンレストランもコロナで営業していないし椅子が片付けられテイクアウトだけの弁当屋さん。
打ち放しの壁に高さを生かしたレイアウトも子供の休憩室にとって代わり、当時は大人たちも大挙して押しかけたことが夢のよう。

汚れた外壁、みじめに伸びた花たち。ささやかな残された喜び、そして圧倒的な黒姫山の懐。影しか見えずその存在だけで空気感を支配していた。
まるで黒い巨人の足元にひれ伏す民になった気分。
大きく変わったのは遊覧船が就航していたこと、驚き。
寂しげにヨットの帆影だけが風に揺れていたあの頃とは大きく異なる。

3日目は生憎の雨模様。3度目のいもり池。

霧だと思ってみていたら、実は雲だった!!!
雲が窓から入ってくると驚いた岡倉天心の言葉通り、雲が高原の地平に漂い、水面を覆い、食べていた途中のアイスクリームの器を覆っていく。雲に包まれるアイス。すごいね。素直にうれしい。

かくして高齢者の仲間入りを果たした奥様の旅は続く。
私の人生もともに続く。
フェアリーテイルみたいにね。

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